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ぼちぼち訪問看護~回想録~その② 1杯の紅茶

ぼちぼち訪問看護~回想録~その② 1杯の紅茶

こんにちは 看護部門・副管理者の大塚です。

~私が訪問看護の世界に飛び込んで、かれこれ20年。
「昔もあって、今も変わらないもの」「今までも、これからも大切にしたいもの」そんな日々の想いを、ぼちぼちお届けいたします~

Mさんは、自宅で在宅酸素をしながら過ごされていました。
徐々に食事が減り、うとうとされることが多くなり、いよいよ水分も取れなくなりました。
自宅にて点滴をすることになり、お伺いした時のことです。
ご高齢で、しかも数日食事をされていないので、脱水状態。
点滴できそうな血管が見つかりません。
1回、2回と試みるも失敗。
3回目も・・・・すぐに漏れて点滴を続けることができません。

私は失敗するごとに焦りと緊張が膨らんでいき、鼓動が速く強くなるのを感じました。
「今、ここで私が点滴を入れられなかったら―」
色々な考えが浮かび、責任と重圧でしまいには「点滴が成功する」というイメージすら持てなくなってしまいました。
「少し休憩しましょう。お茶でも飲まれませんか。」
Mさんの介護をされている娘さんが、私に声をかけてくださいました。

娘さんは私を別室へ通し、とてもきれいな柄のソーサー付きのティーカップに紅茶をいれてくださり、私が紅茶を1杯飲み終える間、娘さんはMさんがお元気だったころの話をゆったりと、懐かしそうに話しておられました。

もう鼓動は感じません。
あと1回だけ。4回目。
点滴は・・・・入りました。
何回も痛い想いをさせてしまったことをお詫びしたとき、娘さんが
「やっと入れてくださった点滴、少しでもたくさん母の身体に入るように、そばについてしっかりみていますね。」
そうおっしゃってくださいました。

通常、どのお宅でも訪問看護の際は、お茶などをいただくことはお断りしていました。
この日、1杯の紅茶をいただくほんの10分ほどの間に、私は紅茶と一緒にいろいろな想いをいただいたのだと思っています。

一人暮らしのSさん。
週1回30分だけ体調のチェックにお伺いしています。
私が座る席のテーブルに並べられた、Sさんお気に入りのソーサーとカップ。
いつも私を迎えてくれます。